待ってました、綿矢りさ3年半ぶりの新作長編『夢を与える』。チャイルドモデルから芸能界入りした夕子。美しい容姿と素直な心で一躍人気者となるが、夢を売る仕事は彼女の生活を少しずつ侵食し、やがて破綻を迎え始める。芥川賞受賞第一作、ずいぶん待たせてくれたじゃない。
初めて見る3人称文体(短編でもやってるらしい)は、相変わらず澱みのない文章で読み易い。より洗練された印象。美少女タレントという設定だけど、個々人の中にある心の陰影を描くのは前2作を踏襲してるから、社会的半径が広がったように見えてもやっぱり綿矢ワールドだなー。ストーカー被害に遭ったという著者の背景を微妙に勘ぐりたくはなったけどね。 「夢を与える」=「誰かの虚像であり続けねばならない」という結論。人間関係の中には無数の感情と利害が渦巻いてる。期待と失望、犠牲と奉仕、依存と逃避、愛情と憎悪。みんながその中でバランスとって折り合いをつける。しかし、何かが欠落してしまった夕子は、それゆえに"夢を与える"ことができた。その不均衡な行為を。虚構の中の関係を。「夢」という美しい言葉の裏の皮肉を引き合いに、人間関係の滑稽さ、危うさを描いたんだろーな。と感じる。 センス感じたポイントは、トントン拍子に見える夕子だけど、実はそこまでの売れっ子ではなかったという点。これがよりシビアな世界を演出。今作のストーリーに批判的な評も聞こえてくるけど、筋よりもメッセージが重要と考えれば、よくまとまってておもしろかったよ。 てことで、好事家フープを発揮してサイン会へ(初めてやるそうだ。ちなみに左利き)。えらい行列で、しかも全然進まないのはナゼ?と思ったら、これがまたものすごい丁寧で、サインのみならずお客ひとりひとりと軽い談笑してました。そりゃ時間かかるわ。りさりさ先生は、芥川賞受賞時の印象(fromテレビね)と変わらなく、控えめなかわいらしさと知性が同居する印象。こんなコがこんな陰のある作品を描いてると思うとますます興味わいちゃうんだよねー。まだまだ成長過程。次回作を楽しみに待つ!
by april_foop
| 2007-02-21 00:00
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