ようやく読む機会に恵まれた村上春樹『東京奇譚集』。久しぶりに"世界のハルキ"に触れて、やっぱ彼がベストなんだよなぁ、と何度目かの確信。村上レトリックが超感覚的に馴染むの。面白い話を書く作家はたくさんいるけど、彼の世界がいちばん好き。やさしくて頼りなくて、そしてシンプルだ。
村上春樹らしいプチファンタジー×5編。長編のそれよりも身近な設定で、すべてはなんらかの喪失とその受容を示唆するような内容。そして巡り合わせの持つ神秘性、運命性も思わせる。 『偶然の旅人』 全体通しての導入。乳ガンによる乳房の喪失とゲイの男。形を無くすことの不安と変化。ジェンダーについてもちらりと考えちゃうね。 『ハナレイ・ベイ』 息子との死別。自然の循環。残って欲しいものは損なわれ、無価値に思えるものが存在し続ける。そして時間はただ流れていく。とても哀しいけれど、決して暗くないの。 『どこであれそれが見つかりそうな場所で』 失踪した夫。ボランティアと称して夫探しを始める男が探していたのは、自らを消し去れる、どこかへ連れ出してくれる、そんなきっかけと場所だった。オチが自分の中にすとんと落ちたわ。 『日々移動する腎臓のかたちをした石』 行方をくらました恋人。父の言葉に縛られ、恋人と正対できなかった男の物語。誰かを愛することは、誰かのすべてと向き合うこと。そこに余分なものを差し挟んではならないのだな。 『品川猿』 忘れてしまう自分の名前。それはアイデンティティのメタファーとしての名前であり、負うべき責任でもある。「品川区」の焼き印はその暗喩。部分的に『千と千尋』にも通じる? て感じ。哀しみは伴うけど辛気くさくなくて、すごく良かった。とても面白かった。なんだか『ねじまき鳥』でも読み返したい気分になった!
by april_foop
| 2007-01-12 00:00
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