とうに話題じゃなくなった話題の本のレビューって気が引けますが、劇団ひとりの『陰日向に咲く』。すごいよく書けてて、評判になるのも頷けますわ。
5つのストーリーがちょっとずつリンクする短編連作集。物語の繋げ方や、ひとつひとつのセンテンス、比喩のバリエーションはかなりテクニカルで、思わず「お、うまい」と手のひとつも打ちたくなる。各話主人公の独白形式で、それぞれ独特の言い回しをもたせてるから、キャラ付けがすごいしっかりしてるのだわ。 口語体のリズムが今っぽいし、それぞれの思考も時代の気分とあってるから、違和感とか全然ない。このへん劇団ひとりの芸風にも通じるっつーか、文系のにおいっつーか、要するに妄想家なのだよ。普段からよくモノを考えてる人じゃないと書けないセリフがたくさん登場するし。ギャンブラーの方程式とか、アイドルオタクの持論とか。 ただね、テクニカルな部分が前に出過ぎてるせいか、あっという間に話が滑り落ちちゃった。万遍なくよくできてて、逆に5編の物語で伝えたかったものが印象に残らない。キャラもセリフに頼り過ぎてて本質的なソウルは見えてこない。小市民の数奇な縁、誰も見ていない個の存在。そんな、タイトルで謳ってる世界観がテクニックに負けちゃったかも。映画化のオファーがあるとかないとかって話だったけど、このまま映像にしても面白くなんないだろーね。素材としては魅力的だけど。 なんて言ったものの、一読の価値はアリアリ。劇団ひとり、好きだしー。
by april_foop
| 2006-11-09 00:00
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